HU-plus(Vol.1)2016年11月号
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は「資金の調達・管理」「研究戦略・戦術の企画立案」「国際研究活動支援」といった業務を担当する。欧米では充実しているシステムだが、広島大学には本格的なものはなかった。一から作り上げるつもりで、優秀な人材を投入したという。研究支援だけでなく、URAがリードして外部資金を調達したり外部から見た研究の方向性を提案するなど幅広い役割を期待している。 研究活動のIR(Institutional Research)も強化した。これは研究者のアクティビティーを分析・評価し、次の活動に生かす活動で、広島大学では早期から行ってきたが、それを可視化して戦略的な見方ができるようにした。例えば、研究活動で業績を上げている人もいれば、教育に熱心な人もいる。「それぞれが最適な方向に進んで、大学全体としてのアクティビティーが高まっていけばいい」(吉田理事・副学長)というわけだ。 研究者の評価では、特に優れた研究を行う教授職をDP(Distinguished Professor)、若手教員をDR(Distinguished Researcher)に認定し、専任のURAを配置するなど研究力強化のリーダーとして活躍できる支援体制を整備している。「Distinguished Professor」は一般的に言えば、かなりレベルの高い称号だ。大学もノーベル賞候補者として毎年のように名前が挙がるような研究者であるとPRすることも重要だ。 広島大学を世界に飛躍させるために、もっとも重要な取り組みの一つが「研究拠点」づくりである。複数の研究者が集まることで新たな領域の研究を生み出したり、社会に役に立つ成果を得るというものだ。吉田 理事・副学長は「研究者の新たな発想に基づく新プロジェクトを戦略的に育てる試みが弱かった」と話す。 そこで、「研究大学強化促進事業」を利用して立ち上げた制度が「研究拠点育成・選定システム整備」だ。さまざまな分野の研究者が集まったプロジェクト型の研究拠点を「インキュベーション研究拠点」として公募。採択した研究拠点には約600万円の活動資金などの支援を3年間行う。これまで毎年20件ほどの応募があり4~5件採択されている。 インキュベーション研究拠点は時限的なプロジェクトだが、大学ではこの間に実績を上げ、外部資金などを調達できる独立した研究拠点に育ってほしいと考えている。こうした研究拠点では大学として認定した研究拠点という「看板」を得て、国内外の大学、研究機関、企業との共同研究も行われやすくなる。それが現在では6つある「自立型研究拠点」で、まさに広島大学を代表する研究拠点と考えていい。 世界に向けて英語で発信する研究が増えるなか国際化へのサポートも課題だ。そこで図書館にライティングセンターを設け、学生や若い研究者に英語論文の書き方、編集者からの指摘への対処法などについて個別相談を受けたりセミナーなどで情報を提供している。 また、各拠点を中心に国際会議招致も積極的に行っている。昨年夏に広島観光コンベンションビューロー、広島市と包括協定を締結。今年に入ってからは東広島市に芸術文化施設「くらら」がオープン。大学も国際会議開催に際し、財政支援を行っている。国際会議開催は、レピュテーション向上を図り、国際共同研究・国際共著論文の増加が期待できる。 「世界のトップ100大学」を目指してから4年目。吉田理事・副学長は「皆が十分な研究時間を持ち、しっかりとした研究を行える環境ができたのか。その結果として優秀な人材を社会に輩出するという、もっとも大切なことを忘れずに改革を続けたい。そして国際社会・地域社会において存在感のある大学を目指す」と話している。 この広大方式は、他大学と比べてもユニークだ。こうした取り組みを研究成果とともに広く社会に発信していくことで、さらに注目を集める大学になるだろう。         取材・文/日経サイエンス「X線マイクロアナリシスアナライザー(EPMA)」などの最先端の共同研究設備を構える世界唯一の技術であるヒト肝細胞キメラマウスを使用した肝炎ウイルスのリバースジェネティクスを利用し、肝炎の新規治療法の開発を目指す「広島肝臓プロジェクトセンター」「ゲノム編集研究拠点」では、生命現象の解明や再生医療に応用できるゲノム編集技術の確立に挑む014

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